「お待ちしておりました。クランドルフ様」  出迎えてくれたのは可愛い顔の少年。この屋敷の使用人だろう。 「こちらへどうぞ」  屋敷の中へ通されると、それなりにお金がかかって見える内装が目に入る。実は手間をかけてあるのは客を通すスペースだけで、それ以外は殺風景だったりする。そういうことまでわかっている私が相手だと、この屋敷の主人も気を遣ったりはしないのでこちらも楽だ。連れてこられたのは飾り気のない扉の前。 「来たか。入れ」  使用人が何も言わなくても、中から声。使用人が扉を開き、一礼して入る。私もそれに続いた。 「久しぶりだな、クランドルフ」  出迎えてくれたのは大柄な男。もう七十近い歳のはずだが、とてもそうは見えない。使用人を部屋から出し、二人きりに。 「お久しぶりです。陛下」 「その呼び方は止めろと言ってるだろ。俺はもう軍も政治も手は出してねえ。ただのジジイだ」 「いいええ。まだまだお若いですよ、グファイト様」  グファイト・カイルザード。先代の皇帝。現在の皇帝であるガルヴェイス陛下の実の父親である。  元からの強面と、戦場で負った傷、それに乱暴な言葉遣い。知らなければとても君主を務めた方だとは思わないだろう。しかし見た目や言葉遣いの印象とは違い、やるべきことに対しては真面目だし、基本的には優しい方だ。君主の座を退いた今も、ゆっくり隠居などはしていない。人前に出ることこそなくなったが。 「世辞はいい。自分の身体の衰えは自分がよく知ってる。だからお前を呼んだんだ」  前にここに来たのは三年ほど前だったか。その時も確か、グファイト様に呼ばれてここに来たのだ。 「まあ、まずは座れ」  グファイト様はそう言うと真っ直ぐな白木の杖を突いて立ち上がり、部屋の隅にあるティーセットでお茶を入れ始めた。 「ああ、お茶でしたら私が準備を」 「駄目だ。お前はすぐに茶葉をケチる」  こんなやりとりを三年前にもしたような気がする。仕方なく待っていると、お茶の香りが漂ってきた。 「良い香りですね」 「特別に作った『甘ったるいミルクティ』の香りのハーブティだ。飲むと甘くなくてガッカリするけどな」 「私は甘くなくても良いんですが」  グファイト様は極端な甘党で、周りが健康の方を心配してしまうほどだ。お茶は砂糖を入れず、甘い香りだけで我慢しているのだろう。 「食うか?」  差し出されたのは可愛い形の菓子。砂糖の塊みたいな甘ったるいだけの飾り菓子だ。 「遠慮しておきます。グファイト様も加減したらいかがです?」 「これでも抑えてるんだぞ。ほら、中はスカスカだろ」  かじった菓子の断面には、確かに空間がある。以前いただいたときはぎっしりと詰まっていたような。確かに抑えてはいるらしい。  グファイト様はソファーにどっかりと腰掛け、お茶を一口。その仕草には優雅さのカケラもない。カップは何故かマグカップだし。私もソファーに腰を下ろし、お茶をいただく。こちらは綺麗なティーカップだ。 「前にお前をここに呼んだときのこと、覚えてるか?」 「ええ。もちろん」 「どうだった?」 「会えましたよ。旅の最初の方と、終わりの方で一度ずつ」  以前呼ばれたときは、グファイト様の孫であるアシュレム殿下のことだった。殿下が素性を隠して旅に出る、ということで、もし会ったらよろしく頼む、と。  それまでアシュレム殿下本人に会ったことはなかったが、写真を見ていたのですぐにわかった。素性を隠して旅に出ている、ということを知っていれば、すぐに気付く程度の変装だった。 「最初は、何だか色々と迷いがあるようでした。村を発つ頃にはそれなりに元気になってましたけど」 「お前が何かしたのか?」 「村に滞在中、少し話をした程度です。ああ、もちろんセックスはしましたけど。気持ち良かったですよ」 「そういう感想はいらん」  ありゃ。しかし話し始めるとあの感触を思い出してしまう。私も今まで何人もとセックスしたが、殿下は結構な名器だった。 「で、最後に会ったのは?」 「あれは旅を終える一月ほど前でしたかね。殿下は旅の中で会った、アーハルト君の仕事を探してましたね」 「アーハルトってのは?」 「王国から逃げてきた元軍人です。今はうちで補佐をやってもらっています」  いやらしさと感じやすさは、グファイト様好みかも知れない。しかしそれを知られると、後で困ることになりそうだ。 「ふうむ。まあいい。で、アッシュ本人の様子は?」 「三年も経つと殿下はかなり旅慣れてましたね。あと、以前よりいやらしくなってました。でも特定の相手がいたら落ち着きそうですね」 「特定の相手、ねえ」  グファイト様には今までそういう特定の相手、というのはいなかったようだ。奥様も初めから子供を産んでもらうためだけの付き合いだったと聞いている。 「グファイト様はそういう相手がいなくて、寂しいと思ったことはありませんか?」 「いや、別に。子供もいたしな」  ガルヴェイス陛下に比べると、グファイト様は子供を作るのが早かった。必要なことは早く済ませる主義だと言い張るが、実際は寂しかったからなのかも知れない、と思うのは勝手な想像か。 「それより、アッシュに特定の相手ってのはいそうなのか?」 「どうですかねえ。少しは特別な感情を持っている相手というのは何人かいるみたいですけど」  セックスをしたときに特別な感情があった相手、というのが何人かいたようだ。その中に私もちょっとは入っていたようだが、秘密にしておこう。 「むっ。もしかしてこいつか?」  グファイト様が立ち上がり、デスクの引き出しからメモリーディスクを取り出す。再びソファーに腰掛けてから、空中にスクリーンを展開する。映し出された映像には、素性を隠した状態の殿下。その隣には体格の良い青年が。映像の中の二人は、まったりとしたセックスを始めた。そういう映像か。 「これは……何ですか?」 「うちの可愛いバカ息子が送ってきたんだよ。随分仲良さそうだよなあ?」 「良さそうですねえ」  もしかしたらこの相手が、旅の中で一番会っていた相手かも知れない。 「悪くはない相手だが、どうも気になるんだよなあ。なんかこの顔、見たことあるような……まあ、もし厄介な相手だったら、その時考えればいいか」  見たところ性格は悪くなさそうに見えるが……そう言われると、誰かに似ているような気もするが、それが誰なのか分からない。 「詳しくはそのうち本人に聞くか。戦争が終わってからだな」  そう言ってから、グファイト様はお茶をぐびぐびと一気に飲み干す。 「そんな話よりも、だ。今日はもっと重要な用件があって呼んだんだよ」  まあ、そうだろうとは思う。私の報告などあまりあてにしてはいないだろうし。 「バカ息子と連絡が取れないらしい」 「ガルヴェイス陛下と?」 「ああ。前線に出てるはずなんだが、ここ十日ほど連絡が取れないらしい」  ふむう。あの陛下がそう簡単にやられるとは思えないのだが……グファイト様がこうして私を呼びつける程の自体だ。何かあったのだろう。 「敵国に捕まった、という可能性は?」 「それはない。捕まったとしても、あいつなら十日もあれば逃げるか、せめて連絡が取れる状況にまではできる」  確かに、それぐらいあれば私でも連絡を取るぐらいはなんとかなりそうだ。 「それに、捕まえたなら王国としてはそれを人質にしない手はない。盾にすれば兵士の大半は降伏するだろう」  それもそうだ。そもそも陛下が捕まったのなら、それは敗北に等しい。 「あいつが死んだのならすぐにわかるから、その可能性もほぼないと言っていい。それ以外はどんな可能性があると思う?」 「さあ……自分で隠れた、とかでしょうか」  何らかの作戦で、ずっと隠れていて、味方すら欺くために連絡がない……とか。 「遠くはないな」 「あれ、グファイト様にはもうわかってらっしゃるんですか?」 「大体はな。まあ、危険な状態じゃあないはずだ」  グファイト様がそう言うなら、おそらくはそうなのだろう。もしかしたら似たような経験があるのかもしれない。 「で、俺は大体わかってるんだが、アッシュはそれを知らない」 「あらら。きっと心配してるでしょうねえ」 「だから、どうやらバカ息子の代わりに演説なんてするらしい。俺も行ってやりてえんだが……脚がちょっとな」  グファイト様には、戦場で負った大きな傷がいくつもある。若い頃には大したことはなかったようだが、最近はお歳のせいか、脚の調子が良くないらしい。 「魔導義肢などは?」 「ああいうのは駄目だ。身体の魔力の流れが乱れるからな。戦いの邪魔になる」  確かにそうは聞いているが、さすがにもうグファイト様はお年だ。 「グファイト様はまだ戦われるおつもりなのですか?」 「いざというときに、自分とその周りぐらい守れねえでどうする」  こういうお方だからなあ。いざとなったらこの町だけでも守るために戦うぐらいはするつもりなのだろう。 「しかし、もうお年ですから。他の方に任せてはいかがです?」 「はん。なんで自分より弱い奴に守ってもらわなきゃならねえんだ」 「まだ自分の方がお強いと?」 「やってみるか?」  恐い顔がにやりと笑みを浮かべる。ああ、この顔は小さい子供だったら泣きそうだ。 「やってみましょうか」  連れてこられたのは何もない部屋。こういったトレーニング用なのだろう。 「一本勝負だぞ」 「わかってます」  こういう手合わせも久しぶりだ。昔は時々こうして、グファイト様と手合わせなどしたものだ。一本も取ったためしはないが。 「相手が杖突いたジジイだからって甘く見るんじゃねえぞ」 「はいはい」  脚や年齢のハンディキャップがあれば多少は勝負になるかも知れない。そんなのは甘い考えだっただろうか。 「始めるぞ」 「どうぞ」  私が応えると、グファイト様は杖の先で床を叩いた。それに一瞬気を取られた途端、グファイト様の姿が消えた。  やられた。久しぶりだから油断していたようだ。グファイト様は話している間に準備を終えていたのだ。どこへ消えた? 「ほら、こっちだ」  声の聞こえた方を見ると、跳んで着地した姿勢のグファイト様。まるで天井が普通の床であるかのように、平然と天井にあぐらをかいて座る。  そこに向かって術符を飛ばすが、グファイト様が手をかざすと、術符は届かずにへろへろと床に落ち、そこで炸裂した。 「おら、どうした」 「これならどうでしょう」  私は呪文を唱え、グファイト様のいる位置に直接雷撃を発生させる。しかし発動する直前にグファイト様は別の場所、今度は壁に移動していた。 「当たらねえよ」 「ではこれなら?」  射撃では簡単に落とされてしまい、座標指定では避けられてしまう。それなら。 「lightning storm!」  呪文を唱え、魔術を発動させると、部屋中を雷光が埋め尽くす。これなら避けることは…… 「ほら、俺の勝ちだろ」  いつの間にか背後に回っていたグファイト様が、私の首に剣を突きつけていた。 「範囲指定が甘いんだよ。自分の周りの安全地帯を広く取りすぎだ」  そう言いながら剣を鞘に収め、再びそれを杖にして歩く。 「どうだ? 久しぶりの手合わせは」 「驚きました。全く衰えてませんね」 「そりゃあな。身体にガタはきても、制御力は衰えちゃいねえさ」  グファイト様は、重力や慣性など、様々な力を制御して戦う。縦横無尽に動き回るし、飛び道具など簡単に落としてしまう。  魔導義肢を使ったり、今から脚を治そうとすると魔力の流れが乱れ、こういった制御に影響が出るらしい。普通に生活する分には困るような影響はないのだが。 「さてと。負けたんだから俺の言うことを聞くんだぞ」 「はいはい」  これも久しぶりだ。こうなると、何をされるのかも大体わかる。用具入れを開け、中からトレーニングの時に使うマットを引っ張り出す。 「お、やる気満々じゃねえか。相変わらずスケベだな」 「仕込んだのはグファイト様ですよ」 「スケベなのは元からの性質だろ。俺はそれを見抜いて手助けしただけだ」  むむ。そうなのかも知れない。 「久しぶりでも、どうすればいいかはわかるな?」  グファイト様は杖を置き、マットに仰向けで寝転がる。それを見ると、昔の記憶が蘇ってきて、身体は自然に動く。  グファイト様のズボンの前を大きく開け、締めている褌を解く。中から既に勃起したチンポが露出する。とても七十近い歳だとは思えない、老いをまるで感じさせない勃起力だ。それが目に入ると、何も考えられなくなってしゃぶりついてしまった。口の中がガチガチのチンポでいっぱいになる。  ガルヴェイス陛下ともセックスはしたが、やはりこちらの方が良い。チンポは色も形も大きさも硬さもそっくりなのだが。 「うまくなったよなあ。最初はあんなに下手くそだったのにな」  うう、そんな昔のことを言われてもなあ。確かに初めはまあ、お粗末なテクニックだったが、今ではやり方も、グファイト様の感じるツボもわかっている。 「今日はとっととぶち込みたい気分だな。ご褒美じゃねえんだから、そのぐらいで我慢しろ」  うむう。そう言われては仕方ない。名残惜しいが口から出し、上着のポケットからローションを出す。それから服を全部脱ぎ、自分の尻にローションを仕込む。  硬く反り返るチンポを上向きに保持し、上から跨って入り口にあてがう。ここに来る前に多少準備はしてきたが、ウケそのものが久しぶりだ。挿入する前に深呼吸する。 「じれってえなあ」  グファイト様が私の尻をぴしゃりと叩くと、急に身体が重くなった。耐えきれずに腰を落とし、その硬いチンポを一気に飲み込む。 「ぐう……急に重力かけるのはなしですよう……」 「とっとと始めないお前が悪い」  と、もう一度ぴしゃりと。再び重力がかかり、身体の奥をえぐられる。 「ああ、陛下ぁ……」 「その呼び方は止めろと言ってるだろ」  もう一度ぴしゃり。気持ち良くて、つい昔の呼び方が出てきてしまった。気をつけてはいるのだが。 「なんだ、もう漏らしてるのか? だらしねえなあ」  言われてから、自分のチンポから白濁した汁が漏れていることに気付く。それがグファイト様の服を少し汚してしまっていた。 「まあいい。さて、久しぶりにいけるか?」  グファイト様は片手を私の背に回し、もう片方の手で杖を持つ。そのまま杖を突き、立ち上がろうとする。 「あああ、無理はなさらないで下さい……」 「黙ってろ」  私の口に、褌が突っ込まれる。ついさっきまでグファイト様が締めていたものだ。汗とその他の体液の混ざった良い匂いだ。それに気を取られている間に、グファイト様は繋がったまま杖を突き、立ち上がった。慌ててグファイト様の身体にしがみつく。 「お前はこうされるのが好きだったよな」  確かにそうだった。程良く自分の体重がかかって気持ち良かったし、グファイト様の力強さが格好良くて、大好きだったのだ。 「こら、そんなに締めるんじゃねえ。出しちまうだろうが」  ああ、それは困る。もう少しこのままでいたい。 「お前のために三日も我慢してたんだ。もうちょっと楽しませろ」  その歳で三日「も」、と言ってしまうあたりはさすがだ。精力も衰えていないらしい。 「あいてて。やっぱりこの脚じゃ長く続けるのはきついな」  案の定、ちょっと辛かったようだ。グファイト様は腰を下ろし、杖を置いた。 「ほら、後向け」  チンポが抜けないように注意しながら、自分の身体を回転させて後ろを向く。すると後から押し倒され、マットに四つんばいに。  後から掘り込まれ、身体の内側を擦り上げられ、奥をえぐられる。それがたまらなく気持ち良くて自分から腰を動かす。 「ああ、駄目だ……久しぶりのお前のケツが気持ち良くて、もう限界だ」  グファイト様がそう言いながら、私のチンポを扱く。尻と同時に責められているので、あっという間に漏らしてしまった。 「たまんねえ……お前の中に出すぞ!」  身体の奥に精液が吐き出される。 「はああ、三日も溜まってたからな。濃いのがたっぷり出たかな」  残念ながら量や濃さまではわからない。口に出してもらえば良かったかな。 「では、この手紙をアシュレム殿下に渡せばよろしいんですね?」  後始末をして、最初に通された部屋に戻ってきたところで渡されたのは一通の手紙。封筒にはグファイトからアシュレムへ、と書かれている。 「ああ。バカ息子が生きてることは確実だからな。それだけでもわかれば多少は安心するだろ。今の状態じゃ戦場で命を落としかねない。そうだ。これも渡してくれ」  と言って、グファイト様がデスクの下から出したのは……剣だった。受け取ると、見た目の割には以外と軽い。 「白と黒、という名前の魔剣だ。いつのまにやら皇帝の持つ剣、なんてことになってる。まあ、バカ息子は剣は使わないってんで、受け取らなかったが」  白と黒。聞いたことはある。名前だけなら。 「そんなに凄い剣なんですか?」 「まあ、それなりにはな。一応魔剣の中でも、芸術だなんて言われてる部類だ」  魔剣。剣に魔術を刻み込んで、様々な力を発揮するようにしたものだ。出来の良いものは、その魔術の組み方がすばらしく、芸術作品とまで言われるほどだが。 「見たところ、普通ですが」  鞘から抜いてみても、剣に魔術の刻印のようなものは見当たらない。 「まあ、そうは見えないように作ってあるからな」  グファイト様はデスクの上に座り、剣を奪い取るようにして鞘に収めた。次に抜いたときには…… 「まあ、こういう剣だ」  その剣は柄もろとも見えなくなっていた。何かを握っている様子はあるので、そこにあるのは確かだろう。 「やろうと思えば鞘も消せる。本当はもっと色々とできるんだが、役に立つのはこのぐらいだな」  剣を細長いケースに入れ、再び渡された。 「ちゃんと殿下に渡しておきます。では私はこれで」  手紙とケースを持って立ち去ろうとすると、思い出したように呼び止められた。 「ああ、もう一つ忘れてた」  私が振り向くと、目の前に顔があった。口づけられ、舌を絡められる。しかしすぐに離れてしまった。 「またな」  まただ。これにいつもやられてしまう。グファイト様のことはずっと好きで、でもグファイト様自身は誰かと本気になる気はなくて。それなのに私はいつも本気になってしまいそうになる。とっくに諦めたはずなのに、これでいつも気持ちが再燃してしまう。 「また、会いに来てもいいんですよね?」 「いつでも来ていいぞ。他の奴とセックス中に遭遇してもいいならな」 「そうならないように、連絡しますよ」  とは言いつつも、自分からは来ないだろうなあ。いつまでも進展しない恋にしがみついていても仕方がない。  さあ、頼まれたものを届けに行かなければ。